柿右衛門様式の魅力と人気に迫る|芸術品として価値ある理由とは?
柿右衛門様式という言葉を聞いたことがある方は、自宅や実家の居間や玄関に飾ってある美しい絵柄の壺や皿に心当たりがあるのではないでしょうか。実際にどのくらいの価値があるか、どうしても気になってしまうものです。
実は柿右衛門様式の陶磁器には、かつては日本を代表する輸出品だった歴史があり、ヨーロッパを中心に世界で高く評価されていました。あの「開運!なんでも鑑定団」で、歴代最高評価額を記録したのも実は柿右衛門様式の壺なのです。
そこで当記事では柿右衛門様式の特徴や歴史を紐解きながら理解を深めるとともに、骨董品としての価値などについて解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
柿右衛門様式とは
柿右衛門様式について理解するために、まず次の5点に整理し順次説明します。
- 柿右衛門様式の概要
- 柿右衛門様式の特徴「濁手」
- 柿右衛門様式と有田焼
- 柿右衛門様式とマイセン
- 15代にわたって継承される柿右衛門様式
柿右衛門様式の概要
柿右衛門様式が誕生した経緯について、簡単に紹介します。
今から400年以上前、元和2年(1616年)ころ、朝鮮半島から渡来した技術者の一人によって、九州の有田泉山で良質の陶石が得られる白磁鉱が発見され、これをきっかけに、日本で初めて磁器の焼成に成功しました。
寛永年間(1624年~1645年)ころには、肥前長崎の港で中国明朝の色絵磁器が陸揚げされていました。このころになると、海外との交易用に独自の色絵磁器の生産が期待されるようになります。酒井田喜三右衛門という人物が、伊万里の商人らの協力を得て、日本で初めて赤絵磁器を完成させたのが、正保4年(1647年)ころのことです。
その酒井田喜三右衛門こそが、初代柿右衛門その人です。これが柿右衛門様式の発祥です。
その後、柿右衛門様式はオランダ東インド会社によって広くヨーロッパに伝わり、ドイツのマイセン窯などにも大きな影響を与えました。
国内においても、肥前鍋島藩をはじめ全国の諸藩から、城中の調度品や贈答品としての特別注文を受けるなど、柿右衛門窯は特別に優遇されたという記録が残っています。
柿右衛門様式の特徴「濁手」
「濁手」(にごして)とは、柿右衛門独特の乳白色の素地を指します。この乳白色の素地は「乳白手」とも呼ばれ、青みを帯びた白色の従来の磁器とは違ってほぼ純白です。そのため、色絵が鮮やかに映える特性を持ち、色絵を最大限に引き立てる素地といえます。
濁手の柔らかな色調と独自のオーラが人々の心をとらえ、そして生産量が少なく入手が難しいことなどから、その価値が高く評価されました。
この濁手の技法が完成したのは、延宝年間(1673年~1681年)とされています。しかしながら1700年代の江戸中期になると、その技法は一時的に失われてしまいます。その理由は、濁手の素地の調合が困難であり、さまざまな陶石を混ぜると歪みや破損が多く発生し、生産したものに対する完成品が全体の3割程度という低い生産性にありました。
そこから時代が進み、12代目柿右衛門(1878年~1963年)が、息子の13代目と力を合わせて、代々伝わる江戸時代の古文書をもとに濁手の技法を復活させました。
そして1971年に、柿右衛門様式の製陶技術は国の重要無形文化財に指定され、再び注目されるようになります。
柿右衛門様式と有田焼
柿右衛門様式は、有田焼における独特のスタイルのひとつです。有田焼は染付などの手法により、「古伊万里」「柿右衛門」「鍋島」の3系統に分類されており、伊万里港から出荷されたこともあり、海外では「イマリ」との名で知られています。
有田焼は、16世紀末に豊臣秀吉が朝鮮出兵を行った際、出征した肥前領主・鍋島直茂が日本に連れてきた朝鮮人の陶工、李参平が、有田で窯を開き、磁器の生産を始めたのが最初の磁器と言われています。
初期に生産された磁器は、白地に藍色1色で図柄を表したものでした。その後1640年代に中国人の陶工により、青・黄・緑をベースに上絵付を行う色絵磁器が生産されます。
その後17世紀後半になると、濁手(にごしで)と呼ばれる乳白色の素地に、上品な赤をベースに、白い余白を生かした絵画的な文様を描く技法が考案されました。これが柿右衛門様式の始まりです。柿右衛門様式の技法は、輸出用の最高級の磁器として製造され、ヨーロッパを中心に絶大な人気を得ました。
柿右衛門様式とマイセン
柿右衛門様式の陶磁器は、オランダ東インド会社を経由して日本から海外に輸出され、ヨーロッパで非常に高く評価されました。ルイ14世の在位(1643〜1715)のころからフランス革命(1789)前の時期に流行したロココ様式に大きな影響を与え、ヨーロッパの陶磁器製造業者によって広く模倣されました。
ヨーロッパの陶磁器製造業者のマイセンの誕生に、柿右衛門様式が深くかかわっていることをご存じでしょうか?
日本の陶磁器を集めていたことで有名なザクセン選帝侯アウグスト2世は、自らのコレクションを公開することで力を誇示していました。しかしそれだけでは満足できず、日本の柿右衛門様式をまねてヨーロッパ産の陶磁器を作り出し、輸出品とすることを考えたのです。このような発想で1710年に誕生したのが、ヨーロッパ初の硬質磁器窯「マイセン」です。1730年ころには、柿右衛門様式の正確な模倣品を生産していたことが知られています。
柿右衛門様式とマイセンは、美しさと装飾面での特性が共通しています。マイセンは柿右衛門様式の模倣品を作るために、柿右衛門の特徴的な装飾スタイルを参考にしました。まさに東洋と西洋の技術と、芸術の交流の一つと言ってよいのではないでしょうか。
なお、柿右衛門様式とマイセンの縁をきっかけに、有田市とドイツ連邦共和国・マイセン市は姉妹都市として現在も交流を続けています。
参考:陶都有田国際交流協会
15代にわたって継承される柿右衛門様式
柿右衛門様式の初期の赤絵は、中国明朝・景徳鎮の磁器を手本にしたため、中国的な「花鳥図」、「鳳凰図」などのデザインが主流でした。
3、4代目柿右衛門のころになると、鹿紅葉・秋草・松竹梅などの日本画的な絵付けのスタイルが定着しました。さらに柿右衛門様式独特の乳白色の濁手素地と相まって、そのエレガントな美しさが国内外から高い評価を受けることになります。
その後江戸時代中期になると、柿右衛門様式の技法は廃れてしまいます。そこから時代が進んで1950年代になると、12代・13代柿右衛門が柿右衛門様式の技術を復活させました。
現代によみがえった柿右衛門様式の技術は、15代柿右衛門に継承されています。
柿右衛門様式の壺に出された驚愕の鑑定額鑑定団
柿右衛門様式に世間の注目が集まった出来事として記憶に新しいのが、あの「開運!なんでも鑑定団」です。柿右衛門様式の壺が出品され、驚きの鑑定額が示されました。
以下、高額の鑑定額が出た理由を含め具体的に紹介します。
なんでも鑑定団で出た驚愕の鑑定額とは
テレビ東京を代表する人気番組「開運!なんでも鑑定団」が1994年の放送開始以来、発表した鑑定額の最高額は、一体いくらかご存じでしょうか?
実はなんでも鑑定団の最高額は、2005年9月27日放送分で、柿右衛門様式の壺につけられた「5億円」です。
超高額鑑定が出た理由とは
この柿右衛門様式の壺の鑑定を依頼したのは、ドイツの名家ヘッセン家の当主だった、モーリッツ・フォン・ヘッセンさんでした。彼は、かつてドイツ・ヘッセン州を統治していた豪族の末裔(まつえい)です。先祖代々で集めたお宝の中には、中国や日本の磁器が多数含まれていました。
実際の放送では、鑑定団で有名な中島誠之助さんと阿藤芳樹さんが、ドイツにある依頼主のお宅を訪問し、柿右衛門様式の壺を直接確認しました。そしてスタジオで鑑定するため、実物が日本に運ばれてきたのです。
本人評価額は1億円でしたが、鑑定の結果、国宝級の価値がある本物との鑑定で、本人評価額の5倍の5億円が提示されました。
なおこの額は、なんでも鑑定団の歴代最高評価額であり、その記録はこの記事を執筆している2023年6月時点で破られていません。
海外でも高く評価された柿右衛門様式
柿右衛門様式は現在でも海外でも高く評価され、根強い人気があります。ここでは、柿右衛門様式の陶磁器が、一体どのような経緯で海外に輸出され、なぜ人気があったのかなどについてさらに詳しく紹介します。
オランダ東日本会社を通じた海外輸出
オランダ東インド会社(正式名:「連合東インド会社」Vereenighde Oost Indische Compagnie 略称をV・O・C)とは、1602年に設立され、喜望峰(南アフリカ共和国)からマゼラン海峡までの貿易独占権を与えられたオランダ国籍の会社です。
オランダ東インド会社は、1609年に長崎の平戸(出島)に商館を設置しました。生糸・銀などの交易で莫大な利益を上げ、1639年以降は鎖国下の日本とヨーロッパとの貿易を独占的に担っていたのです。
柿右衛門様式の特徴である余白を十分に残し、鮮やかな赤を基調に絵画のような構図を特徴とした色絵磁器は、1602年に設立されたオランダ東インド会社の手によって、ヨーロッパなどへ輸出されました。日本から輸出された陶磁器の花形として、王侯貴族や富裕層を中心に海外で高く評価されたと言われています。
ヨーロッパの王侯貴族に絶大な人気
遠く離れた東洋から運ばれてくる陶磁器は、王侯貴族や富裕層にとって、自らの趣味のよさをアピールする絶好の道具でした。1600年代半ばころのイギリスのハンプトン・コート宮殿、ドイツのツヴィンガー宮殿などでは、東洋の磁器で広間を飾ることがブームになったほどでした。
しかし1644年に起こった明・清の王朝交代による内乱の影響で、中国からの磁器の供給が不安定になり、それに代わる供給先として日本の「有田」に注目が集まったのです。
当時のヨーロッパの王侯貴族たちは、柿右衛門様式の美しい色絵の磁器のとりこになり、宮殿や邸宅を飾るために、私財を投げうってまでも、あるいは精鋭の兵士を差し出すこともいとわないほどの熱狂だったといわれています。
中国の陶磁器生産地・景徳鎮との関係</h3>
柿右衛門様式は、中国の陶磁器にも大きな影響を及ぼしました。
中華人民共和国にある江西省の東北部に、千数百年の陶磁器生産の歴史を誇る街、景徳鎮市(けいとくちんし)があります。
今からさかのぼること13世紀の時代、中国・景徳鎮で生産された染付磁器は、揚子江から船で運ばれ、シルクロ-ドを経て遠く中近東ややヨ-ロッパへ輸出されていました。朝鮮半島を経由して、日本にも伝わったとされています。
17世紀になると、明朝末期の中国が内乱に陥って景徳鎮の磁器が輸出できなくなり、その代替品を有田に求めてきたのですが、景徳鎮磁器を手本に技術を磨いていた有田の技術者は、このような注文にも、すぐに対応できました。
1684年になると清朝の中国が輸出を再開したことや、江戸幕府から貿易禁止令が発令されたことなどから、柿右衛門様式の生産量が減っていきます。東インド会社は中国に対し、日本のようなものを作ってくれと注文するようになり、景徳鎮も日本の柿右衛門様式の模倣品を生産し、ヨーロッパに輸出していた時代がありました。
参考:陶都有田国際交流協会
柿右衛門様式の用途
柿右衛門様式の作品は、具体的にどのような用途で使われるのでしょうか。
大きくは実用と観賞用に分類されます。以下、ひとつずつご紹介します。実用面と、コレクションに分けて簡単に紹介します。
茶道具や日本料理の器として
有名な作品の一つに、有田の有名窯元・小畑裕司先生が天皇皇后陛下に献上した「桜図の夫婦湯呑み」があります。桜の繊細な絵柄が特徴で、通信販売でも購入可能です。値段は30,000円ほどで高級な湯呑み茶碗なので、記念日などの贈答品として購入すると喜ばれるかもしれません。
15代目酒井田柿右衛門先生の作品には、濁手の素地に梅の花が絵付けされた、ぐい呑みなどの身近な容器もたくさんあります。大型の専門店などでの販売価格は、10万円近い場合もあり、他の窯元よりも高い値段で販売されています。
花瓶や皿は観賞用としても根強い人気
柿右衛門様式の皿は様々な窯元で製作されており、インターネット販売で数千~数万円程度と、手ごろな価格で入手できるものも数多く存在します。
花瓶や大皿などは、インテリアの一部としても人気があります。オークションで古美術収集家が出品するケースもあり、活発に取引されているところをみると、今でも人気がある磁器と言えるでしょう。
柿右衛門様式作品の保存と手入れ
柿右衛門様式の作品は繊細な技法で製造されているため、どのように保存したらよいのか、日ごろのお手入れはどうすればよいのか、気になりますよね。
そこで大切なコレクションの保存とお手入れの留意点をお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
最初に購入した時のお手入れ方法
そもそも柿右衛門様式は磁器なので、陶器と比べて強度が強く吸水性も低いため、比較的扱いやすいのでご安心ください。
柿右衛門様式の食器を購入したときは、最初にぬるま湯で軽く洗ってから使用するとよいでしょう。陶器の場合は、土の粒子と粒子の隙間を米のとぎ汁で埋めると汚れやにおいが付きにくくなると言われていますが、柿右衛門様式の食器の場合は、それほど特別な対応は必要はありません。
ただし磁器は陶器よりも1.5倍の強度があるので、柿右衛門様式とお手持ちの陶器を重ねないように気をつけてください。
金や銀が使われている場合の注意点
磁器は1,200℃を超える高温で焼くため熱には強いのですが、電子レンジや食洗器には対応していない場合もあります。特に金や銀が使われている場合は、磁器が変色してしまう恐れがあるので、電子レンジなどの使用は避けるべきとされています。
見た目だけでは判断が難しいので、詳しくは磁器の購入店で確認するか、取扱説明書にしたがってご利用ください。
収納する際のポイント
柿右衛門様式の器を重ねて収納する際は、和紙やキッチンペーパーをはさんでください。食器が直接重なると、使っているうちにキズが付いたりします。大切な焼き物を美しい状態で末永く使うには、少し手間がかかっても大切に扱うことをおすすめします。
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